【フィクション】男は日本一偉いの暴れん坊。(第2話)
第2話。 「仕込み」
ミーティングから数日後、有馬彦左衛門が執筆を終えた脚本が渡された。
有馬は日本の中枢たる政治に関わる要人でありながら男の世話役がてらそのかたわら密かに脚本家として君臨している重鎮だった。
脚本とは冒険活劇ものが主。もちろん主人公は日本で一番偉い男「真之条」だ。
男は町に出ると名を偽り真之条と名乗っている。以前は「真之助」だったが、
みごとに町人にバレて男を知ってしまった一般の者を都(みやこ)から地方へ奉公に行かせるのに随分苦労したものだ。それもあって名を変えたのである。
話がずれたが、この活劇に必要なのはとにかく役者とスタッフだ。そして演出。
まず、脚本を渡されたボディガードたる、隼人、あざみには町はずれから、美人の女性を何人か探してくるところからはじまる。オーディションを行い見事合格し選ばれれば、その後食うに困らない生活がその女性には待っている。
それは良いとして、問題は悪役だ。隼人とあざみは変装の名人だ。隣町などに行き、潜入。
ゴロツキやチンピラがいそうなギャンブル店に行き、たっぷり金を積んで出来るだけ人相が悪く、従順な輩をスカウトしてくるのだ。
次は代官及び、有名商人店での別交渉を始める。要はスポンサーとサポートを選び、探し出す仕事だ。
ここには隼人とあずみとは別に大岡が動く。行政、および取り締まりに顔が利く大岡が同行し、「影武者」を作り上げるのだ。実際、本物の代官や上役の人間が悪事を働き、日本一偉い男に盾突いたら、お家は断絶…切腹、その周りの者達全て「お取りつぶし」という罰が待っている。
その為、地方からこれまた一般人を金で雇うのだ。有馬脚本では…
「私服を肥やす悪代官」「闇取引の越後屋」「その用心棒と浪人」などなど…。
要は「替え玉」を作り上げるのだが、変えられた方は本人でないとはいえ、たまった者ではない。が、ここで役に立つのが大岡の「顔利き」だ。たまに
「自分の替え玉立てるなんてごめんだ」とごねると最後に有馬のじいさんが
出てきて「言うこと聞かないとこの国から消えてもらうけど?それでいい?」
とほとんど脅迫とも思える説得でサポートが決まる。そのサポートとは主に最後のシーン???にそのお屋敷の敷地を借りて大殺陣回りが行われるからだ。
さすがに外でやるわけにはいかない「秘密」のイベント故の配慮だ。
が、貸す方としは、屋敷内がメチャクチャに荒らされ、後かたづけが大変なのと、一応、メンツが大事の世の中で、男に無礼をふるったとなれば後々後ろ指を刺されかねないリスクがあるからだ。
だが、その辺はちゃんともみ消すから大丈夫だと釘を刺されている。
逆にひとたびこの行事に参加すると一蓮托生となり、逆に弱みを握られさらに逆らえない状態になるのである。芋ずる式だ。悪代官とはまさに大岡、有馬の事だ。
あざみ「役者は揃ったわね。」
隼人「いや、まだだ、エキストラが足りてない。」
あざみ「あーそうね。今回の本は町中からはじまるのよね…」
隼人「そうだ。一般人からスカウトするぞ、時間がない。」
あざみ「了解。日雇い料は制作費(公金)からでいいでしょ?」
隼人「あたりまえだ。ただ衣装、小道具代もあるから無駄使いは出来ないがな。」
そう言うと、町へ繰り出す。人捜しは日が暮れても行われた。
二人の苦労は絶えないようだ…。それでも彼ら二人が「上さま」と呼ぶ男への
忠誠心からなるものにブレはない。
さあ、有馬脚本、演出で、演目の始まりである。
第三話につづく。
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