【フィクション】男は日本一偉いの暴れん坊。(第1話)
「第1話 『その男は……』」
その男は日本で一番偉い男だった。
気まぐれで政治を混乱させられる最高権力者だ。もちろん彼に対し 無礼は万死に値するほど。
そんな男は退屈しのぎの為に暇を見つけては…いや、正確には勝手に
暇を作り、自らの大邸宅の裏口から二人のボディーガードに命じて 町中へ遊びに出かけるのである。
二人のボディーガードは隼人とあざみ。両者ともあらゆる武術の達人で あり、変装から芝居、陣頭指揮全般、なんでも出来る万能な男女である。
他では二人のことを「最強のお庭番」というあだ名も付いている。
隼人は小舟で大邸宅の抜け穴から男を先導する。抜け穴の先は井戸になっており、お偉い要人の服では下町で目立つ為、井戸の上であざみが一般人になじむ着替えを用意して待っている。着替えが終わると男は一人、町に出る。
といっても、男の周りには常に隼人、あざみが姿を隠し、偽り、常に護衛をして いる。その男に何かあれば日本の政治はひっくりかえってしまうのだから 二人とっては心の休まる刻はない。
男の行きつけは町の消防団。
はっきりいって飲み友達となっている「頭(かしら)」とよばれる初老オヤジとの夜遊びがもっぱら。子分を引き連れ夜な夜な「火の用~心!」と称して呑み歩くのである。
ほとんどは男の愚痴を聞くのが役目。もちろんこの頭も、男が日本で一番偉い 要人だと心得ている。が、男から「仰々しいしゃべり方したら切腹な。」 と半ば脅されながら、話をさせられている。
何しろ喧嘩っ早い消防団の若い衆。ちょいと居酒屋で他の客とモメ始めるとすぐに大喧嘩になってしまう。もちろんその場に男もいたりすると後処理が大変だ。喧嘩一つで大怪我などしようものなら天下の大騒動になってしまう。が、そこら辺は日本で一番偉い人、文武両道には事欠かない腕っ節。そのせいもあってか、喧嘩の仲裁とかこつけて、相手をぎったぎたにやっつけてしまうから達が悪い…。
相手がブチ切れて刃物など出そうものならどこからともなくボディーガードの二人が現れ、相手を拉致して海へ沈める徹底ぶり。
当然おおごとになるのだが、それらをもみ消すのが、男の大親友。大岡というお偉いさんだ。警視総監並にたいていの事件はもみ消してしまう。もちろん、頭(カシラ)ともグルだが、同じく世話役化している大岡は毎回自分の親友とはいえ、
半殺しにしたゴロツキどものクレームの嵐をもみ消すのに苦労が絶えない…。めんどくさい時は国外追放させるだけの力がある。
そんなある日、後家老屋敷に隼人、あざみ、大岡が呼ばれた。そして屋敷の主、有馬と名乗る老人との定例極秘ミーティングが開かれた。
議題は… 「そろそろあのイベントやらんと男のストレスでどんな嫌がらせをくらうかわからん。政治がめちゃくちゃになりかねん」だ。
有馬老人は言った。
「致し方ない。脚本を書くか…」
第二話につづく。
0コメント