【フィクション】 『憧れのKAWASAKI』  

 十代の頃…。ノブオはまだ中免すら持っておらず、バイクと言ったら50㏄の原チャリだった…
 たまたま出会った年配のバイク乗りとのやりとり。
 その男が乗ってきた大型バイクが行きつけの店先に停まっていた。そのバイクのタンクにはKAWAWAKIのエンブレムが着いている。
 中免すらもまだ持っていない当時のノブオにとっては大型バイクは注目の的となった訳だが…、思わず男に話しかけた…
「すごいっすねえ!KAWASAKIの○○っすよね!?………っ!」
ノブオは訳もわからず、とにかく話始めた。男は口数が少ない。
「俺、50(㏄)乗ってんですけど~っ」
とにかくバイクの事で共通点を見出す。が、いかんせん話は盛り上がらない。
「ふーん。」
返ってくる男の言葉に、あーでもないこーでもない話かけていると、男が店を出ようとする。その時あたりだろうか、思わずノブオがこんな事を話すとビックリするような言葉が返ってきた。
「俺、その内中免の免許取りたいと思ってるんですよ~。んで、400(㏄)乗りたくて~」
まぁ、免許を持っていないノブオにとって、普通の願望というやつなのだが、その時、本当に免許が取れるのか?またそんな金はどこから出てくるかなど分からない。ただただ、若気で願望だけを口走ったわけだが…
「へえ。単車乗りたいんだ?」
男が話に初めて乗ってきたのだ。
「そうなんですよ!やっぱ原チャじゃ駄目っすよ!単車乗るには中免以上じゃないと!でもまだ免許取る金も無いし~、単車もその内~~」
ただただ願望だけなのだ。叶うかどうかよりもただただ話をふくらませたかっただけなのだが…
「ふーん。じゃ、乗っておいで。貸してやるよ。○○(バイク)」
「え!?」
ノブオは「まさか!?」と言葉を疑ったが見た目にも十分すぎるほど大人に見え、高価なバイクを本気で「貸す」なんて言うものなのだろうか?と思った。
「乗りたいんだろ?」
どうやら本気らしいが、流石に地元の友達同士のノリで見も知らない人間のバイクを乗らせてやると言われて正直退いたのだ。
「いやぁ、だって免許ないし…。」
「原チャリ乗ってればバイクがどう動くかくらい知ってるだろ?」
「いやぁ、コカ(事故)したらシャレにならないし…」
「そか。じゃ………」
男はそう返事すると少し間を取ってからこう言ったのだ。
「免許が欲しいの?バイクが欲しいの?」
「え?」
「『バイクに乗りたい』なら、免許欲しいと言う前に取りに行けば良いし、バイクもゲップ(ローン)ででも買えば言い。乗りたいと言うのはそっからじゃねえか。目の前にあるバイクに『乗りたい』っていう意思表示も曖昧(あいまい)じゃ一生「単車」とやらには乗れないぜ。」
「………。」
ノブオは思った。…なんだろう?自分には無いモノが今の男の言葉にはあった。良く会う友達同士の会話で「いつか」とか「そのうち」と言って免許取得だの、どのバイク買うだの話をしている自分がとても安っぽく思えた。
 
 男は革ジャンのチャックを上げ、ヘルメットを被ると自慢のKAWASAKIにまたがり颯爽と去っていった。まるで「悔しかったら自分のバイクを手に入れて乗ってみろ!」と言わんばかりに。
 ノブオはそれから程なくして、三ヶ月分のバイト代をつぎ込んで中免の免許を取った。その後、単車を手に入れるのに時間はかからなかった。
 乗りたい一心を形にする。そう、人は時に、思いを形にしなければならない時がある。
 思いこみも大事だ。まずはそこからだが、それが思い出にならないようにノブオは最終的に大型免許を取った。きっかけはどうあれ憧れになったKAWASAKIを手に入れ…
今もたまにその店に行くが、その後、その男と出会うことは無い……。

劇団TESTS(テスト)東京東部演劇組織

「劇団TESTS(テスト)」です。 東京東部演劇組織 Tokyo East Side Theatrical Syndicate トウキョウ イーストサイド シアトリカル シンジケートの略称として「テスト」という名称で立ち上げました、社会人演劇集団です。 現在メンバー少数のため合同で活動しながらメンバー集めしています! 20221月に旗揚げ公演を無事やり遂げました! (≧∀≦)

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