【フィクション】アクセルを一握り。

旅すがらバイクで遠乗りしているといろんな事が
待っている。
高速に乗り、目指すインターまでの距離と時間を
計り始めると、すでに疾走(はし)っている事に
飽きている証拠だ。

巡行速度をアクセル一握り上げれば途端に
ジェットコースターよりも速い速度に跳ね上が
り、景色が狭くなる。その分、意識も研ぎ澄ま
され眠気も吹っ飛ぶ。

レース場では無い公道にあって、いつ事故を
起こしても全ては自己責任…というか、
死に直結するだけにスリルなんて聞こえの
良いものではなく、ただ疾走る事だけを
楽しめれば目的地にも速く着くというものだ。

サービスエリアでトイレに駆け込み、缶コーヒー
片手にバイクの脇で休憩していると、声を
掛けられる。

「いやぁ、凄いですねえ。」

「…は?」

どうやら私が身につけている革ジャンだったり、
バイクだったり、話けかけるきっかけはおそらく
何でもよかったのかも知れないけれど、
話しかけたかっただけなのだろう。

「コレ何キロ出るんですか?」

「320キロかな」

「え?そんなに出せるんですか!?」

「いやぁ、凄いですねえ。」


何が凄いの?バイクが凄くても乗る人が凄く
なきゃ意味ないよ。300キロなんてどこでも
誰でも簡単に出せるものじゃないんだからね。

…と喉元まで掛かってやめた。

サービスエリアから本線に入る。
まばらにいるクルマを縫ってもう一握りアクセル
を開けた。

え?320キロなんて出せませんよ。

それでもメーターの3分の2あたりまで針は
挿していたけれど?

それくらいが心地よく疾走れるとわかって
いればアクセルは満開する事自体私の旅には
必要無いのだ。

劇団TESTS(テスト)東京東部演劇組織

「劇団TESTS(テスト)」です。 東京東部演劇組織 Tokyo East Side Theatrical Syndicate トウキョウ イーストサイド シアトリカル シンジケートの略称として「テスト」という名称で立ち上げました、社会人演劇集団です。 現在メンバー少数のため合同で活動しながらメンバー集めしています! 20221月に旗揚げ公演を無事やり遂げました! (≧∀≦)

0コメント

  • 1000 / 1000