【フィクション】「四月になれば彼女は」
【フィクション】
「四月になれば彼女は」
今年も我がガレージに彼女がやって来る。
昼間の気温が上がり、北は北海道から南は九州地方までバイクでギリギリ走れるこの季節、東京で寝床として利用しにやってくるのだ
。
旅先で知り合った事がきっかけだが、見た目は30前後といったところ、が、出会ってかれこれ10年以上にもなるので、おそらく40代であるだろう。おもしろいのが、毎年この時期にバイクで全国行脚がてら我が家へやってくるのだが、毎年乗ってくるバイクが違うのだ。
最初にあった時は確かオフ車だったとおもうが、ネイキット、スポーツバイクと色々乗り換え、時には80CCのカブで来た時もあったと思う。
何しろ大荷物だ。一体この時期に何ヶ月全国を走り回っているのだと言いたくなるくらいだ。
「またバイク代えたの?」
と聞くと、
「これが最後のバイクですよ!」
と調子よく答えるが、全く信用が出来ない。その上、年によって「今年は北から来た」とか「南の方から来た」と様々、雨風構わず走りまくるのだ。
女性ライダーというと周りからチヤホヤされたり、遠い距離は疲れるから嫌だとか、雨に濡れたくないとか言い出すのが私は嫌いなのだが、彼女を気に入って宿泊させている理由の1つとして、
「群れるのがキライ」と言う事だ。
彼女が好んで四月という中途半端な季節に走る理由の1つも、
いく先々でバイクや人がたくさん居ないこの時期が一番走りやすくて良いから。一人で走ってひたすら走っていろんな物を見て食べる。そのためにひたすらバイクで走るのだそうだ。
そう、今年も四月のこの季節、彼女はバイクで走り回る。
今年もバイクは代わっていた。アメリカンのフロントフォークがとびきり長いいわゆる「チョッパー」というやつだ。
乗りづらくないか?と聞いても「これが良いんですよぉ」と相変わらずの調子の良さだが、ちっとも良さそうではない。(笑)
去年くらいから阿蘇山の火山活動がヤバくて避けてたので、今年は九州へ時間をかけて行こうかと思ってたらしいが、先日の地震で今年はこのまま北へ行くと言っていた。
おい、今北海道は雪だってよ。と言うと、「さすがに今日明日には着いてませんからぁ」
…そりゃそうだな。
ガレージから出すにも一苦労のチョッパーバイク、荷物をパッキング(荷積み)する姿も慣れたものだが、こりゃ、来年はまた違うバイクだな、(笑)
「じゃ、また。」
と、去っていったが、再会出来るのは、遠い旅先か、来年、またこの時期、4月ごろだろう。
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