【フィクション】 「空も飛べるはず」


 
8.9年前のちょうど今頃だ。
毎年恒例のバーベキューの帰り、館山道を東京に向かい帰って居る時だった。
料金所から先に行かせた仲間やゲストをシンガリ(一番後ろ)から確認するように追い抜いて行く。
車は日曜の夕方前とあって首都高手前から混み合う事がわかってか、どの車もそこそこいい速度で走って居る。150〜160くらいで走る車を縫うように追い上げるも、先頭集団が見えて来ない事に前の奴らは相当速度が出て居ると判断し、更に速度を上げ、メーターは220から240を指して居る。
車を縫うと言うより、車と車の間を突っ切る形で市原インター手前で事件は起きた。

左車線にトラック、その斜め前方の右車線に軽自動車が前方に見え、一気に真ん中を突き進もうとアクセルをひねる。
おそらく、軽自動車は速度上限目一杯の160くらいは出ていたと思うが、まさかその速度で後方から機影が現れるとは思わなかったのだろう、追い越し車線(右車線)からトラックを追い抜く形でウインカーも出さずに左に入ってきたのだ。
とっさにブレーキを駆るも時すでに遅し…。
軽自動車の左ケツに接触すると車両(バイク)より放り出される。

アドレナリンが出たのだろう、その一瞬はものすごい景色がスローに見えるもので、ぶつかった瞬間、「宙を舞う」という間隔で、弾き出された。
この時、アドレナリンは出て居た割に意外に冷静で、車に当たった第一接触よりも第二接触。つまりアスファルトへの接触に備え、瞬時に体を亀の子のように丸め、路面を滑走する。
そしてもっと怖いと思ったは第三接触だ。
下手をすれば斜め後方に走って居たトラックに轢き殺されるか、または吹っ飛んだ先にあるであろう「側壁」だった。
「衝撃が来たら終わるっ!!(死ぬ)」と覚悟した訳だ。
が、ヘルメット越しに見える斜めに滑るアスファルト。その滑走が映画のワンシーンかというほど止まらず滑り続ける。後の現場検証で、150メートルも滑走したと交機の者に言われた。(人間がね)
ええ?本当に150メートルも滑走したの??という人もいると思うが、実際、全身にプロテクターのついたバトルスーツがアスファルトの衝撃や摩擦から体を守ってくれたのと硬質の肩、肘、膝のカップが滑走距離を伸ばした要因だった事からすると間違いは無い。
運が良かったのだ。

緩〜く右へカーブしている高速コーナーの途中で車に引っ掛けられた事により、そのまま斜めに左側へ滑っていく事により、後方のトラックの真ん前で止まらなかった事と、真横に飛んでいたら一気に側壁の餌食になる事からも回避出来た。
滑りに滑っている間、どんな衝撃が来ても「気は失わないぞ!」と心に決めて居た。
気を失った瞬間「死」と思うからだが、アドレナリンが出て居て長く感じた滑走も何かにスポッとハマる感じで止まった。
側溝(ドブ)だった。
「止まった」と思った。そのあと、「意識はある」その次に確認したのは手足だ。まるでロボットが再起動するかのように右手、左手と指先から動かし、同じく脚も千切れて居ない事を確認し、ムクリと起き上がった。
遥か前方には、後に公機から「接触から400メートル飛ばされていました」と言われる愛機。
そして、更にすぐ先に私を引っ掛けた軽自動車が左の路肩に停めハザードを出してちょうど運転手が出てきた所だった。
体が動く事を確認するとそのままヘルメットを脱ぎ捨て運転手のところへ自分の脚で掛けて行った。
こちらはアドレナリンのせいか痛みは無い。(後からバッキバキだったけど)
運転手は恐々とこちらを見ている、そこへ走り寄ってくる私という状況で思わずぶん殴ってやろうかと「テメエ何してくれてんだぁ!!」と怒鳴り付けた所でビビっている運転手を見て一気に熱が覚め、出そうとした拳を引っ込める。
ちょうど、追い抜いて来た仲間達が次々「どうした!?どうした!?」と集まり始めたのもある。
ある者は後方から次々来る車を誘導したり、ある者は救急車を呼んでいたり、ある者はバイクを起こして居たり、ある者は私を心配して駆け寄って来た。
すでに気持ちだけは?冷静だった私は相手の運転手を睨みつけながら一言。
「後ろから来た俺に気がついたか?」
と聞き、
「……いえ。」
「それだけは確かに聞いたからな?今ここに居る連中(仲間)も聞いてるからな?忘れんじゃねえぞ!」
という頃、交通機動隊と救急車がやって来た。
私はそのまま仲間に残したバイクや機動隊への聴取も任せ病院へ。
病院で診察される頃になるとあちこち全身が痛み始め、腿(もも)やスネの外側が革パン(チャップス&ジャーパン)の中でかなりの裂傷が起きている事に気づいたのは自宅に帰って服を脱いだ時だった。
医者にたいして「骨とか折れて無いんだからとっとと帰らせて来れ」と言い、即日退院だった。

ほんの一瞬の出来事。
その一瞬、本当に空を舞って居た私。
速度が速度だっただけに、翼が着いてたら、飛び上がれたんではないかと今でも思う。
それよりも、ほんの少しでも「何か」が違っていたら、お陀仏(死んでいた)だったという事はある意味運が良かったというしか無い。
いつ死んでもおかしくない乗り方してて何言ってんだ?
という人もいるだろう。だが、別に死にたくて疾走っている訳では無い。それでも死なない様に疾走っているのだ。
振り上げた拳を引っ込められたのもそういう事があるからだ。
そんな速度で疾走してて何があっても、仮に車に引っ掛かれられてもハードラックで片付けられてしまうのだから。
例えゆっくり走っていてもハードラックで付き纏う「死」はいつ何時訪れるかなんてわからないのだから。
それが嫌なら初めからバイクになんて乗れないと思っているので。
翼が着いてたら空も飛べるはず?とよく冗談で言うが、実際にバイクは翼もついてないし、空を飛ばす者でも無い。
それが分かっていれば良い。
※注・あくまでこの話はフィクションです。

劇団TESTS(テスト)東京東部演劇組織

「劇団TESTS(テスト)」です。 東京東部演劇組織 Tokyo East Side Theatrical Syndicate トウキョウ イーストサイド シアトリカル シンジケートの略称として「テスト」という名称で立ち上げました、社会人演劇集団です。 現在メンバー少数のため合同で活動しながらメンバー集めしています! 20221月に旗揚げ公演を無事やり遂げました! (≧∀≦)

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